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提訴後に会見した妻(中央)は「より健康に生きるために受けた治療で、なぜ亡くならなければならなかったのか」と話した(画像の一部にモザイクをかけています)=2025年4月30日、名古屋市中区、嶋田圭一郎撮影

 豊田厚生病院(愛知県豊田市)で2021年、不整脈の心臓カテーテル治療を受けた男性(当時49)に重篤な合併症が起き、後に死亡したのは、担当医ら病院側の過失によるものだとして、同市在住の50代の妻が30日、病院を経営するJA愛知厚生連(同県長久手市)に約1億1648万円の損害賠償を求め、名古屋地裁に提訴した。

 訴状によると、男性は20年11月、不整脈の一つで無症状の発作性心房細動と診断され、豊田厚生病院で翌12月、心臓内の肺静脈周囲を高周波で焼くカテーテルアブレーション治療を受けた。

 退院後の21年1月、高熱や嘔吐(おうと)で同病院に救急搬送され、多発性脳梗塞(こうそく)を発症。約13時間半後に初めて、心臓と食道に穴があく左房食道瘻(ろう)の可能性を認めた。その約7時間後に外科手術を受けたが、遷延性意識障害(植物状態)のまま同4月に退院。23年10月、別の病院で急性腎不全で死亡した。

 遺族側は、担当医が当時の学会指針に照らして治療方法の選択肢を示さなかった▽アブレーション治療の中でも、食道近くを焼く「BOX(ボックス)隔離術」と呼ばれる方法を説明のないまま採った▽治療後に左房食道瘻の予防薬投与や生活指導をしなかった▽発症後の診断や治療が遅れた、など、医師ら病院側に多くの注意義務違反があると指摘した。

 左房食道瘻は、心臓内の食道近くを高温で焼く影響で起きる合併症で、発生率は0.02%程度とされる。致死率は極めて高く、発生防止に細心の注意が求められている。

 男性の妻は提訴後、名古屋市内で会見した。病院からは、左房食道瘻が起きた理由などの説明はなく、医療法に基づく医療事故調査も、別の病院で死亡したことを理由に断られたという。妻は、裁判の目的について「大切な夫に何があったのか知りたいのです。より健康に生きるために受けた治療で、なぜ亡くならなければならなかったのか知りたいと思いました」と話した。

 JA愛知厚生連は「個別の案件についてはコメントできかねます。訴状が届いていないため、届き次第、必要に応じて対応を行います」とコメントした。

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